力士について:階級・部屋での立場・一日の過ごし方
大相撲の力士は、番付という一本の順位表のどこにいるかで、給料も住まいも服装も髪型も変わります。このページでは階級ごとの違い、部屋での暮らし、一日の流れ、付け人、普段着、髷の意味を、日本相撲協会の公表資料や国税庁の通達、新聞・取材記事をもとに整理します。
番付という一本の階段:関取と、それ以外
力士(りきし)の暮らしを理解する近道は、番付(ばんづけ)=本場所ごとに作り直される力士の順位表を見ることです。本場所(ほんばしょ)とは、年6回・各15日間行われる公式の興行のことです。給料も、住む部屋も、着る物も、髪型も、番付のどこにいるかでほぼ決まります。
上から順に、次の6つの段に分かれます。
| 段 | 地位 | 段の呼び名 |
|---|---|---|
| 1 | 横綱(よこづな)・大関(おおぜき)・関脇(せきわけ)・小結(こむすび)・前頭(まえがしら) | 幕内(まくうち) |
| 2 | 十両(じゅうりょう) | 十両 |
| 3 | 幕下(まくした) | 幕下 |
| 4 | 三段目(さんだんめ) | 三段目 |
| 5 | 序二段(じょにだん) | 序二段 |
| 6 | 序ノ口(じょのくち) | 序ノ口 |
幕内のうち、大関・関脇・小結の3つをまとめて三役(さんやく)と呼びます。前頭は三役より下の幕内力士で、平幕(ひらまく)とも言います。
各段の人数
幕内は最大42人です。日本相撲協会の英文パンフレットに “There are up to 42 makuuchi rikishi.” とあります。その下の十両は28人とされます(nippon.com)。三段目は東西合わせて200人、序ノ口と序二段には定員がない、という説明もあります(週刊ポスト)。幕下の定員(120人とよく紹介されます)は、今回は確認できませんでした。
さらに下に、番付に名前が載らない力士がいます。入門したばかりの新弟子などで、彼らは前相撲(まえずもう)を取ります。協会の観戦案内には「新弟子検査に合格した後の力士、あるいは番付外の力士が取る相撲を前相撲といい、三日目(三月場所は二日目)より行われます」とあります。
成績のよい者から順に出世し、新序出世披露(しんじょしゅっせひろう)という行事で土俵上に紹介されます。これで翌場所に序ノ口へ上がる資格を得ます。新序出世披露は中日(なかび=8日目)に行われ、大阪場所だけは五日目と九日目に行われます(日本相撲協会)。
いちばん大きな段差は「十両」と「幕下」の間
6つの段のうち、待遇が決定的に変わるのは十両と幕下の境目です。十両以上を関取(せきとり)と呼びます。
辞典類の説明はこうです。「幕内および十両力士の敬称。紋服を着ることができ、まげも大銀杏(おおいちょう)に結う」(デジタル大辞泉)。「十両以上の力士のこと。幕下以下の付け人がつき、土俵入りに出場し、取りまわし、稽古まわし、さがりなども幕下以下とは違うものを用いる。さらに、大銀杏を結うことが許され、月給、褒賞金をもらえるようになる」(ブリタニカ国際大百科事典)。
つまり、身につけるまわしの素材まで変わります。関取と幕下以下は、遠目にも見分けがつくようになっています。
なお、番付編成上の正式な地位名は「十両」ではなく十枚目(じゅうまいめ)とされます。協会も「十枚目以上の力士が結うことのできる大銀杏」という書き方をする一方、「十両土俵入り」のように「十両」も広く使っています。
取る相撲の数も違う
本場所は15日間ですが、土俵に上がる回数は段によって違います。関取は15日間毎日1番(合計15番)、幕下以下は15日間のうち7日だけ取ります(合計7番)。協会の英文パンフレットにも “Rikishi in the makushita and below only compete on seven days in each tournament.” と明記されています。
横綱だけは降格しない
横綱は、成績が悪くても番付が下がりません。その代わり、不振が続けば引退を求められる立場でもあります。横綱審議委員会が横綱に対して決議を出す仕組みがあると説明されますが、その規程そのものは今回確認できませんでした。
横綱への昇進は、「2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」を基準に、協会から横綱審議委員会へ諮問し、答申を受けて理事会で決める形です(デジタル大辞泉)。
大関については「三役で3場所合計33勝」という数字がよく語られますが、これは協会が公表した明文の基準ではなく、目安として使われている数字です。33勝に届かずに昇進した例もあると言われます。
待遇の違い:お金の仕組みが十両で切り替わる
結論から書くと、月給が出るのは十両以上だけです。幕下以下には月給がなく、本場所ごとの手当が中心になります。
関取の月給
2018年11月29日の日本相撲協会理事会で、2001年以来18年ぶりに関取の給与改定が決まり、2019年1月場所から適用されました(日本経済新聞)。
| 地位 | 月額 | 改定前 |
|---|---|---|
| 横綱 | 300万円 | 282万円 |
| 大関 | 250万円 | 234万7000円 |
| 関脇・小結 | 180万円 | (確認できず) |
| 前頭 | 140万円 | (確認できず) |
| 十両 | 110万円 | 103万6000円 |
横綱・大関・十両の新旧金額は日本経済新聞の記事で確認できます。関脇・小結の180万円、前頭の140万円は、毎日新聞出版の解説記事(元NHK解説者・北出幸一)によるものです。同記事は「ボーナスはない」とも書いています。
このとき、幕下以下に支給される場所ごとの手当も一律10%引き上げられています(日本経済新聞)。
力士褒賞金(持ち給金)
関取にはもうひとつ、力士褒賞金(りきしほうしょうきん)という独特の仕組みがあります。「基準額」という数字を一人ひとりが持っていて、勝ち越すたびにそれが積み上がっていく、いわば通算成績の記録です。この基準額に一定の倍率を掛けた額が、年6回の本場所ごとに十両以上の力士へ支払われます。
この制度が実在することは、国税庁の法令解釈通達「力士等に対する課税について」(直所5-4、昭和34年3月11日)で確認できます。同通達は、協会が寄附行為施行細則に基づいて支給するものとして「養成費(細則第48条)」「力士褒賞金(細則第80条及び第81条)」「幕下以下奨励金(細則第82条)」などを挙げ、いずれも給与所得として課税する、と定めています。
一方、よく紹介される具体的な数字――序ノ口出世時の基準額3円、勝ち越し点1点につき50銭加算、現行の倍率は4000倍、横綱は基準額150円(1場所60万円)、大関は100円(40万円)が最低保証――は、根拠とされる細則そのものを今回参照できませんでした。制度の存在と名称は確かですが、数字は裏が取れていない、と受け取ってください。
幕下以下
幕下以下は、協会の制度上「力士養成員(りきしようせいいん)」として扱われ、月給はありません。年6回の本場所ごとに場所手当(ばしょてあて)が支給されます。金額は幕下16万5000円、三段目11万円、序二段8万8000円、序ノ口7万7000円(いずれも1場所あたり)と紹介されますが(毎日新聞出版)、協会の公表資料でこの内訳を確認することはできませんでした。国税庁通達にある「幕下以下奨励金」との関係も確認できていません。
ただし、幕下以下でも衣食住は部屋が用意します。協会から各部屋へ力士1人当たりの養成費(nippon.comは「養育費」と表記)が支払われる仕組みがあるためで、「無給だが生活はできる」という構造になっています。nippon.comは、この仕組みが「出世の見込みのない力士を辞めさせない」という副作用も生んでいる、と指摘しています。
そのほかの収入
関取には次のような収入もあります(毎日新聞出版)。
- 幕内最高優勝の賞金1000万円
- 三賞(殊勲賞=しゅくんしょう、敢闘賞=かんとうしょう、技能賞=ぎのうしょう)は各200万円
- 幕内の取組に懸けられる懸賞(けんしょう)は1本7万円。積立金や手数料が差し引かれ、力士が土俵上で受け取るのは3万円
懸賞の残りが積立金に回るのは、引退後や納税に備えるためだと説明されます。
部屋での立場:関取と取的、大部屋と個室
力士は必ずどこかの相撲部屋(すもうべや)に所属し、そこで寝起きします。師匠(親方)の死去や定年などで部屋が続けられなくなった場合を除き、移籍は認められません(nippon.com)。
2024年初場所の番付に載った力士は599人、部屋は45でした(nippon.com)。力士数が600人を割ったのは1979年春場所以来で、新弟子の減少が背景にあります。数字は時期によって動きます。
入門の条件は、義務教育を修了した健康な男子で、身長167cm・体重67kg以上(三月場所の中学卒業見込者は165cm・65kg以上)など。所属したい部屋の親方を通じて新弟子検査を受けます(日本相撲協会「力士になるには」、令和6年9月26日現在の基準)。
「関取」と「取的」
十両以上が関取。それ以外の力士は取的(とりてき)と呼ばれます。ただし言葉の範囲は資料によって違います。デジタル大辞泉は「力士の最下位の者の称」、ブリタニカ国際大百科事典は「関取でない若い力士のこと。幕下以下すべてをいうこともあるが、序二段、序ノ口以下だけをさすことが多い」。文脈で揺れる言葉だと考えてください。
部屋の中では若い衆(わかいしゅ)という言い方もよく使われます。本来は幕下以下の10代・20代の力士を指す言葉です(nippon.com)。
部屋の中の順番は、すべて番付順
部屋の生活は、稽古も風呂も食事も番付順です。ただし方向が逆になります。
- 稽古(けいこ):下位の力士が先に土俵に入り、上位ほど後から出てくる
- 風呂・食事:上位から先に入り、先に食べる
下位の力士は「いちばん早く土俵に上がり、いちばん最後に食べる」ことになります。さらに給仕やちゃんこ番、付け人の仕事も担います。
住まいの違い
幕下以下は大部屋での共同生活です。寝るのも大部屋で、プライバシーはほとんどありません。関取になると個室が与えられます(nippon.com)。
「関取になれば部屋を出て通える」とよく言われますが、nippon.comはもう一段限定して「部屋を出て独立した暮らしができるのは、原則として十両以上の力士(関取)が結婚した場合に限られる」と書いています。協会規則の条文としては確認できませんでした。関取になった時点で自動的に外に住めるわけではない、と理解しておくのが安全です。
なぜこういう仕組みなのか
相撲部屋は、稽古場であると同時に生活の場です。中学卒業直後で入門する力士もいるため、部屋が衣食住と生活指導をまとめて引き受ける形になっています。番付順の生活は、そこに序列と役割を持ち込んで日々を回すための実務的な仕組みでもあります。
付け人:誰が誰に付き、なぜ必要か
付け人(つけびと)とは、関取の身のまわりの世話をしながら相撲界のしきたりや礼儀を学ぶ、幕下以下の力士のことです(ブリタニカ国際大百科事典)。基本的には同じ部屋の下位力士が務めます。親方や行司(ぎょうじ)につく付け人もいます。
人数の目安
同事典によると、十両で2〜3人、幕内で3〜4人、横綱では8〜10人以上が付くとされています。地位が上がるほど人数が増えます。協会が定員を定めているかどうかは確認できませんでした。
仕事の中身
- 稽古場でタオルを持ち、汗を拭く
- まわしや化粧廻し(けしょうまわし)、荷物の運搬と管理
- 本場所の支度部屋(したくべや)での身支度の手伝い
- 移動の付き添い
なぜ必要なのか
理由は2つあります。
1つは実務です。関取は本場所で15日間毎日取組があり、土俵入り(どひょういり)では化粧廻しを締めます。これらの支度を一人で回すのは難しく、人手が要ります。
もう1つは教育です。付け人は「世話をする係」であると同時に「見習い」です。関取の準備や振る舞いを間近で見ることが、そのまま作法の稽古になります。番付というピラミッドの中に修行の場を組み込んだ仕組みだと言えます。
ただし、負担の重さも指摘されています。nippon.comは、幕下以下の力士が基本的に無給のまま「付け人として一日中、関取衆や親方たちの身の回りの世話」をし、ちゃんこ番も務める現状を、待遇面の課題として挙げています。
なお、付け人が足りない場合に同じ一門(いちもん=系統の近い部屋の集まり)の他の部屋から融通する、という運用も語られますが、その手続きを公的資料で確認することはできませんでした。
一日の過ごし方(1)本場所がない日
本場所は年6回、1回15日間です。それ以外の日は、部屋での稽古が中心になります。時間割は部屋によって違います。朝稽古は「6時台から始まり、10〜11時に終わる部屋が多い」とされますが、力士の人数によっては12時を過ぎる部屋もあります(スポーツナビ)。
取材記事に出てくる2つの実例を挙げます。どちらも取材時点のもので、全部屋に共通する時間割ではありません。
例1:高田川部屋(nippon.com、2018年6月取材)
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 6:00頃 | 起床・身支度。朝は何も食べない |
| 7:00 | 大半の力士が稽古場に集合。四股(しこ)、すり足、鉄砲(てっぽう)などの基本運動 |
| 8:00過ぎ | 親方が稽古場に現れ、申し合い(もうしあい)開始。番付下位の力士から土俵に入る |
| 稽古終盤 | ぶつかり稽古で締める。最後に土俵に上がるのは関取 |
| 稽古後 | 関取から番付順に入浴。その間、ちゃんこ番が調理 |
| 昼 | この日最初の食事。親方、関取、続いて幕下以下の順 |
| 昼過ぎ | 昼寝。床山が髷を結う(関取は個室、幕下以下は大部屋で) |
| 夕方まで | 掃除・洗濯の当番以外は自由時間 |
この部屋では稽古場入りの時刻は各自に任されていますが、関取が早くから出てくるため、下位の力士も遅くは起きられない、と記事は書いています。
例2:宮城野部屋(スポーツナビ、飯塚さき、2024年2月)
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 7:00 | 下位の力士は起床し、まわしを締めて準備 |
| 8:00 | 稽古開始 |
| 11:00頃 | 稽古終了。上位から入浴 |
| 昼 | 若い衆が親方に給仕し、そのあと順に食卓を囲む |
| 昼過ぎ | 片付けののち、大部屋で昼寝 |
| 16:00 | 全員起床、掃除 |
| 18:00 | 夜のちゃんこ |
| 夜 | 自由時間。部屋でゲーム、外食、ゲームセンターなど |
用語の補足
- 四股(しこ):片脚を高く上げて踏み下ろす基本運動
- すり足:足の裏を土俵から離さずに前へ進む運動
- 鉄砲(てっぽう):柱を手で突いて体重移動を覚える運動
- 申し合い(もうしあい):勝った力士が土俵に残り、次の相手を指名して続けていく実戦形式の稽古
- ぶつかり稽古:攻め手が受け手の胸に全力で当たり、押し込んで転がり、受け身を取る稽古。受け手は多くの場合上位の力士が務め、これを「胸を出す」と言う
- ちゃんこ:相撲部屋で作られる食事の総称。カレーでもちゃんこ。鍋料理だけを指す言葉ではない。語源は中国由来の「チャンクオ」説、料理番への親しみを込めた呼び方説、「ちゃん(親方)」と「こ(弟子)」が一緒に食べるから、など諸説あります(nippon.com)
「朝食を食べない」「食べてすぐ寝る」のはなぜか
多くの部屋が1日2食で、昼食後に昼寝をします。nippon.comは「稽古で空かせた腹を一気に満たし、食後すぐ昼寝する習慣が、力士の体重を増やす」と説明しています。
ただし、この習慣の効果を検証した医学的な資料は確認できませんでした。生活習慣として定着している、という以上のことは言えません。
一日の過ごし方(2)本場所がある日
本場所中は、自分の取組の時刻から逆算して動くことになります。取組は番付の下から上へ進むので、会場入りの時間も番付順に遅くなります。
日本相撲協会が公表している令和八年七月場所(名古屋)の土俵上のタイムスケジュールは次の通りです。
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 9:20頃〜 | 前相撲(三日目から。三月場所は二日目から) |
| 9:20頃〜 | 序ノ口・序二段・三段目・幕下の取組 |
| 13:00頃〜 | 新序出世披露(中日。大阪場所は五日目と九日目) |
| 14:15頃〜 | 十両土俵入り |
| 14:35頃〜 | 十両取組 |
| 15:40頃〜 | 幕内土俵入り |
| 15:55頃〜 | 横綱土俵入り |
| (その後) | 中入り(なかいり)=休憩。立行司が翌日の取組を披露 |
| 16:10頃〜 | 幕内取組 |
| 17:55頃〜 | 弓取式(ゆみとりしき) |
| 18:00 | 終了 |
協会自身が「おおよその目安」と断っています。初日は全体に10分ほど早く、十三日目以降は幕下以下の取組が11時頃からになります。千秋楽には三役揃い踏みと表彰式が入ります。
つまり、
- 幕下以下は朝から会場入りし、午前中に取組を終えます。ただし付け人を務めていれば、自分の相撲が終わっても担当する関取に付き添って会場に残ります。
- 関取は昼過ぎに会場入りし、支度部屋で床山に髷を結ってもらい、まわしを締めて出番を待ちます。
幕下以下は15日間で7番なので、取組のない日もあります。その日は付け人の仕事や部屋の稽古に充てられます。
なお、最後の弓取式を務めるのは幕下以下の力士です。協会の英文パンフレットも、選ばれた力士は “usually ranked in the makushita or lower” と書いています。
本場所中に朝稽古を軽くするかどうかは、部屋の方針によって異なるとみられ、統一されたルールは確認できませんでした。
巡業の日
本場所と本場所の間には巡業(じゅんぎょう)があります。協会が公開している巡業の一日は、前日に約200名が巡業地入りし、9時頃開場、9時30分頃から10時30分頃にかけて幕下以下から順に稽古、11時30分頃から幕下以下の取組開始、13時頃に幕内土俵入りと横綱土俵入り、13時30分頃から幕内取組、14時30分頃に弓取式で打ち出し(終了)、15時頃にバスで次の巡業地へ、という流れです。
取組の合間には、初切(しょっきり)、相撲甚句(すもうじんく)、櫓太鼓打分(やぐらだいこうちわけ)、床山による髪結い実演といった、本場所では見られない催しも入ります。ここでも「下から上へ」という順序は変わりません。
普段着:番付が服装に出る
力士は外出時に和装をするのが原則で、何を着られるかが番付でおおむね決まっています。すれ違った人が一目で立場を判別できる、というのがこの仕組みの実際的な意味です。
関取が紋服(もんぷく=家紋の付いた正装)を着られることは、デジタル大辞泉の「関取」の項にも「紋服を着ることができ」と書かれています。足元の決まりについては、週刊ポスト(2018年3月23・30日号)が若手親方や元力士の証言としてまとめています。
| 段 | 履物 | 足袋(たび) |
|---|---|---|
| 序ノ口・序二段 | 下駄(げた) | なし(素足) |
| 三段目 | エナメル製の雪駄(せった) | なし |
| 幕下 | 雪駄 | 黒足袋 |
| 十両以上(関取) | 畳敷きの雪駄 | 白足袋 |
同記事は「足袋は幕下から着用可能。幕下は黒足袋のみ、十両以上になると白足袋を履ける」「厳しい部屋では伝統通り三段目昇進までは足袋を履くことが許されない」とし、「新入りは真冬でも浴衣か裏地のない着物1枚、素足に下駄で行動することになる」と書いています。
言葉の説明
- 浴衣(ゆかた):裏地のない木綿の着物。いちばん簡素な普段着
- 羽織(はおり):着物の上に重ねる上着。防寒と格の両方の意味がある
- 袴(はかま):下半身にはく、ひだのある衣服。羽織と合わせた「紋付羽織袴」が和装の正装
- 下駄(げた):木の台に歯が付いた履物。歩くと音が出る
- 雪駄(せった):草履の裏に革などを張った、底の平らな履物。下駄より格上とされる
値段の目安も出ています。力士はサイズが大きいため、エナメル製の簡易な雪駄でも5000円以上、畳敷きの本格的なものは最低でも3万円はする、とのことです(若手親方の証言)。
三段目に上がって初めて雪駄を履けるようになるため、その一足を親方から祝いに買ってもらい、「嬉しくて、ほとんどの力士が抱いて寝る」という元力士の証言も紹介されています。角界には「雪駄を履くまで頑張る」という言葉があるそうです。真冬でも浴衣に素足と下駄で過ごす時期があるからこそ、この一足の意味が大きくなります。
これらは元力士・親方の証言に基づく内容で、日本相撲協会が公表した規程の条文としては確認できませんでした。部屋によって運用の厳しさに差がある、という証言もあります。「三段目から羽織を着られる」「幕下からコートや襟巻を着られる」といった説明も見かけますが、今回は記事本文で裏付けられませんでした。
髷と床山:大銀杏と丁髷はどう違うか
髷を結うのは、伝統だけが理由ではない
力士が髷(まげ)を結うのは江戸時代の髪型を受け継いだものですが、日本相撲協会の英文パンフレットは、それが残っている理由をもう一つ挙げています。“…have been preserved not merely because of tradition but also because they serve as head protection in the event of falls.”(伝統というだけでなく、転倒したときの頭部の保護になるから)というものです。
特等床山の床鶴氏も、大銀杏には「力士の頭をケガから守るという役目」があり、頭にぴったり張り付いて多少の動きでは崩れないように仕上げる、と語っています(和樂web)。ただし保護効果を定量的に示した資料は確認していません。
大銀杏と丁髷
| 大銀杏(おおいちょう) | 丁髷(ちょんまげ) | |
|---|---|---|
| 結える人 | 十両以上(関取) | すべての力士 |
| 結う場面 | 本場所の取組、土俵入り、場所入りなど公式の場 | それ以外の日常 |
| 形 | 髷の先を銀杏(いちょう)の葉のように大きく広げる | 髷を折り返しただけの簡素な形 |
「大銀杏」の名は、頭頂部に乗った髷のはけ先が銀杏の葉の形に似ていることに由来します(日本相撲協会)。ブリタニカ国際大百科事典も「十両以上の関取が場所入り、取組、土俵入りなどの公式の場で結う髪形」と説明しています。
注意したいのは、関取も普段は丁髷だということです。特等床山の床松氏は「大銀杏を結えるのは十両以上の関取だけ。それも本場所のときや公式の行事があるときなどに限られ、普段は関取も丁髷である」と述べています(ハリマ化成グループ)。
幕下以下が大銀杏を結う場合
例外があります。ブリタニカ国際大百科事典は「幕下以下はすべて丁髷であるが、十両との取組、初っ切り、甚句、弓取り、断髪式などのときは、大銀杏を結い土俵に上がる」と説明します。週刊ポストの記事も、若手親方の証言としてほぼ同じ内容を挙げ、次のように整理しています。
- 十両以上との取組のとき(規則で大銀杏を結うことが義務付けられている)
- 巡業の初切、弓取式、相撲甚句、床山の練習台になるとき(三段目以上であれば結うことができる)
- 幕下以下に落ちた元関取が引退するときの断髪式
また、出世が速くて髪が十分に伸びていない力士は、髷を結えないため「ザンバラ」のまま土俵に上がることも許されます。
床山の役割
髷を結うのは力士自身ではなく、床山(とこやま)という専門職です。「相撲で、力士のまげを結うことを業とする人」(デジタル大辞泉)で、日本相撲協会に雇用され、各相撲部屋に配属されて力士と生活をともにします。
- 等級:五等から特等までの6段階。2026年7月25日時点で協会サイトの床山一覧に載っているのは46名(特等1、一等18、二等7、三等10、四等2、五等8)
- 見習い期間:3年。その後、所属部屋の関取に大銀杏を結うようになる(和樂web)
- 習得年数:大銀杏を結う技術を習得するには10年以上かかると言われる(日本相撲協会)
- 所要時間:丁髷はおよそ3〜5分。大銀杏はそれよりはるかに手間がかかり、本場所15日間で「きれいな仕上がりだと思えるのは3日ほど」という特等床山の言葉もある(和樂web)
- 定年:65歳(和樂web)
等級が高ければ横綱の髷を結える、というわけではありません。床山は所属する部屋の力士の髷を結うため、特等床山であっても、部屋に横綱がいなければ横綱の大銀杏は結えません(和樂web)。逆に「等級に関係なく大銀杏を結う機会が訪れることはある」とも語られています。
使う道具は、髪を束ねて縛る元結(もとゆい)と、髪をまとめるびんつけ油です。元結は長野県飯田市で、びんつけ油は都内の工房で作られています。独特の甘い匂いがするもので、相撲の会場や部屋の匂いとして語られることが多いのはこの油です。大銀杏の形を整えるマゲ棒は、床山が金属を削って自作します。
床山の名前は「床」の字に本名の一文字を加えて付けるのが通例です(床松、床鶴など)。取組で髷が乱れれば結い直し、大銀杏の仕上がりは力士の見た目を大きく左右します。表に出ませんが、力士の一日に毎日関わる仕事です。
このページに出てきた言葉
- 番付ばんづけ
- 本場所ごとに作り直される力士の順位表。地位が上下すると待遇や生活まで変わる。
- 本場所ほんばしょ
- 年6回、各15日間行われる公式の興行。ここでの成績で番付が決まる。
- 幕内まくうち
- 番付のいちばん上の段。横綱・大関・関脇・小結・前頭からなり、定員は最大42人。
- 十両じゅうりょう
- 幕内の下の段。ここから上が関取。番付編成上の正式名称は十枚目とされる。
- 幕下まくした
- 十両の下の段。ここから下は月給がなく、待遇が大きく変わる。
- 関取せきとり
- 十両以上の力士のこと。月給、個室、付け人、大銀杏などが認められる。
- 取的とりてき
- 関取でない力士を指す言い方。幕下以下全体を指すことも、序二段・序ノ口以下だけを指すこともある。
- 力士養成員りきしようせいいん
- 幕下以下の力士に対する協会制度上の呼び方。月給はなく、本場所ごとの手当が支給される。
- 三役さんやく
- 大関・関脇・小結の3つの地位をまとめた呼び名。
- 平幕ひらまく
- 三役より下の幕内力士、すなわち前頭のこと。
- 十枚目じゅうまいめ
- 十両の正式な地位名とされる呼び方。協会は両方の言い方を使っている。
- 前相撲まえずもう
- 番付に名前が載っていない力士が取る相撲。本場所三日目(三月場所は二日目)から行われる。
- 新序出世披露しんじょしゅっせひろう
- 前相撲で成績を残した力士を土俵上で紹介する行事。中日(大阪場所は五日目と九日目)に行われる。
- 力士褒賞金りきしほうしょうきん
- 十両以上に本場所ごとに支払われる金銭。勝ち越すたびに積み上がる基準額に倍率を掛けて計算される。持ち給金とも呼ばれる。
- 場所手当ばしょてあて
- 月給のない幕下以下の力士に、本場所ごとに支給される手当。
- 懸賞けんしょう
- 幕内の取組に企業などが懸ける賞金。1本7万円で、力士が土俵上で受け取るのは3万円。
- 付け人つけびと
- 関取の身のまわりを世話しながら相撲界のしきたりを学ぶ、幕下以下の力士。
- 若い衆わかいしゅ
- 部屋の中で下位の力士たちを指す呼び方。本来は幕下以下の10代・20代を指す。
- 一門いちもん
- 系統の近い相撲部屋が集まったグループ。出稽古や部屋の継承で結び付きが強い。
- ちゃんこちゃんこ
- 相撲部屋で作られる食事の総称。鍋料理に限らない。下位の力士が当番制で作る。語源には諸説ある。
- 申し合いもうしあい
- 勝った力士が土俵に残り、次の相手を指名して続けていく実戦形式の稽古。
- ぶつかり稽古ぶつかりげいこ
- 攻め手が受け手の胸に当たって押し込む稽古。受け手を務めることを「胸を出す」と言う。
- 四股しこ
- 片脚を高く上げて踏み下ろす基本運動。足腰を作る。
- すり足すりあし
- 足の裏を土俵から離さずに前へ進む基本運動。
- 鉄砲てっぽう
- 柱を手で突いて体重移動を覚える基本運動。
- 支度部屋したくべや
- 本場所の会場で力士が身支度をし、出番を待つ控室。
- 化粧廻しけしょうまわし
- 土俵入りで締める装飾用のまわし。刺繍が施された絹製で高価。
- 中入りなかいり
- 横綱土俵入りのあと、幕内取組が始まるまでの休憩時間。
- 巡業じゅんぎょう
- 本場所と本場所の間に各地を回って行う興行。稽古と取組、催し物で構成される。
- 弓取式ゆみとりしき
- 結びの一番のあと、幕下以下の力士が弓を振って一日を締める儀式。
- 初切しょっきり
- 巡業などで2人の力士が禁じ手や珍しい決まり手をこっけいに見せる演目。
- 断髪式だんぱつしき
- 引退した力士の髷を切り落とす式。
- 大銀杏おおいちょう
- 十両以上が公式の場で結う髷。先端が銀杏の葉のように広がることが名前の由来。
- 丁髷ちょんまげ
- 力士の日常の髷。関取も稽古や普段の生活ではこの髷で過ごす。
- 床山とこやま
- 力士の髷を結うことを仕事とする専門職。協会に雇用され、相撲部屋に配属される。
- びんつけ油びんつけあぶら
- 髷を結うときに髪をまとめるために使う油。独特の甘い匂いがする。
- 元結もとゆい
- 髷を結うときに髪を束ねて縛る紐。長野県飯田市で作られている。
- 雪駄せった
- 草履の裏に革などを張った、底の平らな履物。下駄より格上とされる。
- 紋服もんぷく
- 家紋の付いた和装の正装。関取が着ることを許される。
確かめきれていないこと
このページを作るときに、出典で裏を取りきれなかった点や、資料によって説が分かれる点です。 隠さず書いておきます。
- 【原稿からの主な修正】(1) 三段目から足袋を履けるとしていた点は誤り。週刊ポストの記事本文は「足袋は幕下から着用可能。幕下は黒足袋のみ、十両以上になると白足袋」と書いています。(2)「関取になれば部屋を出て通える」は、nippon.comが「原則として十両以上の力士(関取)が結婚した場合に限られる」としているため、条件を補いました。(3) 力士褒賞金の加算は「勝ち越すごとに50銭」ではなく「勝ち越し点1点につき50銭」と説明されるのが一般的なため書き換え、あわせて数字全体を未確認として扱いました。(4) 新序出世披露の大阪場所の例外(五日目・九日目)を補いました。(5)「三段目から羽織」「幕下からコート・襟巻」は記事本文で裏付けられなかったため表から外しました。
- 各段の定員:幕内の上限42人は日本相撲協会の英文パンフレットで確認しました。十両28人はnippon.comの記述、三段目の東西200人と「序ノ口・序二段には定員がない」は週刊ポストの記述です。幕下120人という数字は今回確認できませんでした。協会自身が公表した定員表は幕内以外見つかっていません。
- 力士褒賞金の計算方法(序ノ口出世時の基準額3円、勝ち越し点1点につき50銭加算、倍率4000倍、横綱150円=1場所60万円、大関100円=40万円)は、日本相撲協会寄附行為施行細則に基づくと説明されますが、細則そのものを参照できませんでした。制度の存在と名称(細則第80条・第81条)は国税庁の通達で確認しています。
- 幕下以下の場所手当の金額(幕下16万5000円、三段目11万円、序二段8万8000円、序ノ口7万7000円)は毎日新聞出版の解説記事によるもので、協会の公表資料では裏を取れませんでした。国税庁通達にある「幕下以下奨励金」(細則第82条)が場所手当と同じものか、別に支給されるものかも確認できていません。
- 関脇・小結の月給180万円と前頭の140万円は毎日新聞出版の記事によるもので、改定前の金額は確認できませんでした。日本経済新聞で確認できたのは横綱・大関・十両の新旧金額と、幕下以下の手当が一律10%上がったことです。
- 協会から相撲部屋に支払われる養成費(細則第48条)は、国税庁の通達から制度として存在することは確認できましたが、力士1人あたりの金額(月7万円などと紹介される)の一次資料は確認できませんでした。nippon.comはこれを「養育費」と表記しています。
- 付け人の人数(十両2〜3人、幕内3〜4人、横綱8〜10人以上)はブリタニカ国際大百科事典の記述です。協会が定員を定めているかは確認できませんでした。付け人が不足したときに同門の他部屋から融通するという運用も、公的資料では確認できていません。
- 階級ごとの着物・履物の決まりは、辞典類と週刊誌記事(若手親方・元力士の証言)に基づきます。協会が公表した規程の条文は確認できませんでした。同記事自身が「厳しい部屋では三段目昇進まで足袋を許さない」と書いており、部屋によって運用に差があります。
- 一日のスケジュールは部屋ごとに異なります。本文の例は2018年6月取材の高田川部屋と2024年2月取材の宮城野部屋であり、全部屋に共通する時間割ではありません。宮城野部屋については取材後の部屋の体制の変化を今回確認していません。
- 1日2食で食後に昼寝をする生活について、nippon.comは体重増加につながると説明していますが、その効果を検証した医学的資料は確認できませんでした。
- 本場所中に朝稽古を軽くするかどうかは部屋の方針によって異なるとみられ、統一されたルールは確認できませんでした。
- 大関昇進の目安とされる「三役で3場所33勝」は協会の明文規定ではありません。33勝に届かずに昇進した例があるとされますが、個別の事例は今回照合していません。
- 横綱に対して引退を求める仕組み(横綱審議委員会の決議など)については、規程本体を確認できませんでした。昇進基準「2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」はデジタル大辞泉の記述によります。
- 「十両」という呼び名の由来については、かつての給金額に由来するという説明を見かけますが、信頼できる出典で裏付けることができませんでした。
- 髷が転倒時の頭部保護になるという説明は、日本相撲協会の英文パンフレットと特等床山の証言(和樂web)によるものです。保護効果を定量的に示した資料は確認していません。
- 床山の人数(46名)と等級の内訳は、2026年7月25日時点で日本相撲協会サイトの床山一覧に掲載されていた人数です。相撲部屋の数(45)と力士数(599人)は2024年初場所時点の数字で、いずれも時期によって変わります。
- 取組開始時刻の表は令和八年七月場所(名古屋)のものです。協会自身が「おおよその目安」と断っており、場所や日によって前後します。
出典
- 日本相撲協会「令和八年七月場所(名古屋)観戦案内 土俵上のタイムスケジュール」
- 日本相撲協会「巡業の一日」
- 日本相撲協会「力士になるには」
- 日本相撲協会 英文パンフレット「SUMO」(PDF)
- 日本相撲協会「床山一覧」(協会員紹介)
- 国税庁 法令解釈通達「力士等に対する課税について」(直所5-4、昭和34年3月11日)
- 日本経済新聞「相撲協会、横綱の月給300万円に 18年ぶり給与増」(2018年11月29日)
- nippon.com 松本卓也「力士を強くする稽古とちゃんこ」(2018年8月3日)
- nippon.com「揺らぐ「相撲部屋」制度―入門者減が招く大相撲の危機とは」(2024年1月19日)
- スポーツナビ 飯塚さき「お相撲さんの毎日の生活って? 宮城野部屋の力士たちの暮らしに迫る」(2024年2月20日)
- コトバンク「関取」(デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典/ブリタニカ国際大百科事典/日本大百科全書)
- コトバンク「取的」(デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典/ブリタニカ国際大百科事典)
- コトバンク「付け人」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)
- コトバンク「大銀杏」(デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典/ブリタニカ国際大百科事典)
- コトバンク「床山」(デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典/改訂新版 世界大百科事典)
- コトバンク「横綱審議委員会」(デジタル大辞泉)
- 和樂web「力士を守り、美しく引き立てる「究極の裏方」〜特等床山・床鶴氏インタビュー・後編〜」(2024年5月8日)
- ハリマ化成グループ「伝説のテクノロジー126 国技・大相撲の伝統と格式の象徴 大銀杏を結う 床山 床松さん」
- NEWSポストセブン「大相撲力士 十両昇進も良いが三段目昇進が嬉しい雪駄の喜び」(週刊ポスト2018年3月23・30日号)
- NEWSポストセブン「普段は大銀杏を結わない幕下力士が大銀杏を結う状況とは」(週刊ポスト2018年3月23・30日号)
- ニュースがわかるオンライン(毎日新聞出版)北出幸一「お相撲さんの給料はいくら?」(2021年5月7日)